川野芽生『奇病庭園』
2024-03-24


幻想小説。長さは中編くらいか。舞台は架空の世界。時代は古代と中世の中間くらい。人間の体に角や翼が生える奇病が流行し始める。この病のイメージが素晴らしい。
 「老人たちは角の重さに頭を上げることもままならずに寝付き、それでも角はますます重さを増して、あるところまで熟すると、嚏(くさめ)をしたが最後ポロリと頭ごと外れるに至るのだった」(p.10)。
 翼を生やすのは妊婦である。「妊婦が上空を通ったあとには、銀線細工のような羽根と、血溜まりの中に産み落とされた赤子が落ちているのでそれと分かる」(p.15)。
 そこで語られる物語も病と同様グロテスクでありながら美しく、そして残酷である。特に「翼に就いてU」の章で語られる、宗教的視野狭窄に陥った少年の、善かれと思ってとった行動による悲劇は、悲惨で憐れある。
 物語は、エピソードを積み重ねる形式で語られるが、時系列順になっておらず、話が前後する。読者は頭の中でそれを時系列順に再構成する。そこに「あ、そうなっていたのか」というカタルシスがある。確認しながら読み直してみなければ判らないが、因果や前後関係が混乱している部分がありそうな気がする。混乱があった方が面白いな、と思う。
[本]

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