牧野修著『月世界小説』
2019-12-30


15年 9月 3日読了。
 多数の言語が無数の妄想世界を産み出している宇宙。「非言語的存在」である神は、この宇宙から言語を消し去り世界を一つに統一しようとしていた。人間は言語を武器にそれに抵抗していた。鍵を握るのは特殊な言語であるニホン語とイディッシュ語だった。
 言語を主題にしたSFであり、物語る主体の座を奪い合う戦いという意味でメタフィクション的でもある。牧野作品の特徴の一つなのだが、どうも言語と世界の関係などの設定と、抑圧者と被抑圧者の戦いという物語が巧く有機的に結び付かず、それぞれが勝手に進行しているような印象を受ける。小説としての欠点なのかアンバランスな面白さなのか判らぬのだが。
 全体に歪んだユーモア感に満ちているのも何時も通りだが、クライマックスに来て「脚注弾」「校正赤色弾」「落丁爆弾」などの一際変な武器が出て来て喜劇性が強く成るのも居心地悪い感じだった。
 「日本語の存在が隠蔽された世界」の話はとても面白かった。
[本]

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