仁木稔著『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』
2019-10-17


15年 3月24日読了。
 連作短編集。暴力の根源的原因は、人間の他者に対する優越への欲望である。従って、人間に良く似た、しかし明らかに下位の存在を作ってやれば、暴力衝動は弱められる。この論理に依り、遺伝子工学的に創り出された亜人を使役する事で、人類は絶対平和(アブソリュート・ピース)を実現したかに見えた。齎された絶対平和は徹底した管理社会で、読者にはグロテスクな物に見える。
 全体に、抑圧される事で蓄積される何かと、それがいずれ噴出する予感に満ちている。一種の人類駄目小説。人類が自分自身を飼い馴らそうとして失敗する話なのだが、人間の品種改良、亜人に依る暴力衝動のガス抜き、日本のポップカルチャーの影響などの主題が大きなうねりと成らず、寧ろ相殺して散漫な印象に成っているのが惜しい。
 単純な未来SFではなく、歴史改変SFに成っているが、あんまり効果がないなーと思っていたら、もっと大きなシリーズの一部らしい。解説にある「科学批判学」という解釈は的外れな印象。
[本]

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