2026-02-12
連作短編三編収録。翻訳家の宮原は姉からの電話で「猫の世話をしてくれ」と留守番を頼まれ、見知らぬ街に滞在することになる。姉から近づくなと注意されていた商店街に迷い込んでしまった宮原は、抜け出せなくなる。三編とも、一見日常的な街から異様な世界に迷い込んでいく話である。まず、空間が歪んでいく。
「左に進んでみると案の定一本道に繋がってほっとしたが、回転焼きの店は一考に現れない。おかしいな、と後ろに向けば二叉で、どちらの道の先にも二叉が見える」(p.25)。
さらに「どこまで行っても見たことのない、それでいてどこにもあるような寂れた商店街の景色ばかりが続く。地図で見た無常商店街の広さを遥かに超えているとしか思えなかった。湾曲した道に差し掛かってカーブミラーが現れ、そこに自分の後ろ姿が映っているのが見えた」(p.26)。
ついには空間が螺旋状に捻じれ、建物は融合し、店先に並ぶ商品も変容して何が売っているのかわからなくなる。変容は人間にも及び、捻じれた街を行き交う人々の姿も奇怪である。
「顔面が一対の翼だけで羽ばたきながら歩いている人、膨張しすぎた頭部をさみ垂れ式に引きずって歩く人、烏賊の漏斗のごとき突起を八方に突き出してせわしなく呼吸しながらも行き苦しげな人、複数の顔の集合がざぬざぬと位置を変えながら五体を保っている人」(p.41)。
現象には妙な理屈がついているが、宮原にも読者にも何のことやら全く判らない。「表相で何かを見て想起した過程が、こちらの相で視覚投影されたのでしょう。咬融域でノージェンス擦過が起きているときには、内面と同期しやすいですしね」(p.35)。どうやら宮原の姉が務めている研究所では、これらの現象研究しているらしかった。
この後、宮原は異界の街の御神体にされてしまった姉を救い出すため、ある「踊り」の特訓を始める。全体にユーモラスな語り口なのだが、ただヘンテコな街をさまよう話ではなく、無理矢理エンターテインメント的な筋立てにしてあるところもなんだがおかしい。
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