養老孟司 奥本大三郎著『ファーブルと日本人』
2024-12-20


対談。
 養老「ファーブルは、母国フランスよりも、日本で親しまれた。日本とヨーロッパでは昆虫に関する捉え方がまるで違う。浮世絵などにも昆虫は数多く書かれているように、日本では昆虫は身近なものとして存在したが、ヨーロッパでは異型のもの的な扱いであった」(p.8)。
 奥本「ジャン・アンリ・ファーブル(一八二三〜一九五一年)は、勝海舟(一八二三〜一八九九年)と同じ年に生まれています」(p.20)。
 養老「彼ら(欧米)の世界は、言葉をアルファベットで書いちゃう。アルファベットは文字数が、二六で決まっていますから、しゃべることも全部二六文字で書けちゃうわけですよ。ということは、世界がアルファベットでできていても、なんの不思議もない」(p.47)。
 養老「こういう話をすると、親は子供が自然に親しむように鍛えようとするんでしょうけれど、鍛えるとか鍛えないとかいうのが、そもそも悪い癖ですよね。鍛えなくていいんですよ。スマホのない日をつくって、子供に「外に行って遊んでおいで」でいいと思うんですが」(p.60)。
 奥本「(ファーブル昆虫館に)取材で来た新聞記者は、このコレクションの中で「いちばん高いのは何ですか? 全部で何匹いますか?」と聞いてくる。他人の評価を気にするというか、素直に見てくれればいいのに、と思うんだけれど」(p.61)。
 養老「ファーブルの世界は、そういう世界(現代科学の世界)とは違うんです。自分と、本来真っ暗であるはずの世界(自然の世界)との格闘ですから、それを人間の世界のことで振り回してもらいたくないんですよね。最近は、個性の尊重とか、いろいろと訳の分からないことを言うでしょう。そういうことを全部すっ飛ばして「自分対虫」という、そういう世界を確保したいね」(p.79)。
 養老「最近よく言うんですけれど、人工知能って騒いでいるけれど、世界には脳は八〇億個もあるものを、なんでわざわざお金をかけてつくんなきゃいけないんだって。(略)世界中の頭を使うために、もうちょっと頭を使えって言っているんですけどね」(p.90)。
 奥本「蚊にとっての空気って、粘っこい重たいもんでしょう」(p.91)。
 養老「この三十年間、経済が停滞しているのは、日本人の「もうこれ以上自然をいじるな」という無意識の意見じゃないですかね」(p.119)。
[本]

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