N・K・ジェミシン著『第五の季節』
2024-05-04


再読。三部作の完結感が翻訳されたので最初から読むことに。舞台となる世界はプレートテクトニクスが活発で、数百年に一度起こる大きな地殻変動で、世界は繰り返し危機を迎えてきた。歴史的には中世と近代の中間くらい。電気照明はあるが蒸気機関はなく、技術の発達順序が我々の歴史と異なっている。火薬も一般化しておらず、この巻の終盤で新兵器として大砲が登場する。
 この世界には普通の人間のほかに、オロジェンと呼ばれる超能力者がいる。鉱物を操る力があり、地震を察知したり、鎮めたりすることができるが、地震を起こすこともできる。地震災害が最も恐れられているこの世界で、オロジェンは普通の人間から憎まれ迫害されている。一方、オロジェンを「飼いならして」地震を抑え込ませることに利用している組織もある。もう一つ、人間によく似たしかし人間では決してない「石喰い」と呼ばれる種族もいるが、人間はめったに出会うことはない謎の種族である。
 さらに、この世界には現在の文明以前の遥かな古代に、現在を超える文明があったらしく、各地に古代文明の遺物がある。その最も象徴的なものが、空中に浮かぶ水晶のような巨大なきらめく多面体「オベリスク」だが、この世界の人は見慣れていて、そういうものだと思っているからその驚異に気づかない。
 このような舞台で、物語は三つのパートが同時に進行して語られる。第一の物語。エッスンはオロジェンであることを隠して平凡な主婦として暮らしていた。エッスンには夫と娘と息子がいた。夫は普通の人間だが、娘と息子はオロジェンだった。ある時、自分の子供たちがオロジェンだと気付いた夫は、息子を撲殺し、娘を連れて行方を眩ます。エッスンの追跡の旅が始まる。
 第二の物語。オロジェンはオロジェンから生まれることが多いが、普通の両親から突然変異的に生まれることもある。ダマヤもそんな子供の一人だった。娘がオロジェンだと気付いた両親から虐待されていたダマヤは、<守護者>に引き取られて旅立つ。<守護者>こそは、オロジェンを奴隷化する組織の一員だった。ダマヤは連れてこられた場所で、ほかのオロジェンの子供たちとともに、その能力を自在に操るための訓練を受ける。
 第三の物語。訓練されたオロジェンであるサイアナイトは指導役のバスターとともに、港のサンゴ礁を破壊する仕事へと出かける。旅の目的はもう一つあり、優秀なオロジェンであるサイアナイトは、最高位の能力者であるバスターの子供を妊娠することを組織から求められていた。
 この世界には月が存在しないことが何度か示唆される。それは二巻以降の物語に大きくかかわることであるらしい。読みどころは、複雑精緻に設定された世界と次第にわかってくる三つのパートのかかわりあいである。また、サイアナイトとバスターの憎みあいながら愛し合っているような奇妙な関係も面白い。
[本]

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