エリー・ウィリアムズ著『嘘つきのための辞書』
2023-11-24


長編。題名がくらくらするくらい素晴らしい。物語は、ロンドンのある辞書出版社の現代と、十九世紀の様子が交互に語られる形式で進む。
 現代、スワンズビー社には、社長兼編集長とインターンのマロリーの二人しか社員がいない。唯一の出版物である『スワンズビー新百科辞書』に、大量の実在しない言葉が混入していることが判り、マロリーはその項目を全て探し出す仕事を社長兼編集長に命じられる。
 十九世紀、『スワンズビー新百科辞書』は、辞書編纂者だけでも五十人以上いる一大事業だった。編纂者の一人であるウィンスワースには、勝手に作った単語とその定義を創作するという趣味があった。辞書の項目の形式で存在しない言葉について書きつけるのだ。ある日、仕事のストレスと報われない恋と爆発事故に巻き込まれたことで精神に失調をきたしたウィンスワースは、自作の偽項目を編纂中の本物の辞書の項目に紛れ込ませる。これが、現代のマロリーが選り分けなければならなくなったフェイク項目である。
 という筋立ても面白いが、そこに大量に登場する、実在しそうな造語や、まるで造語のような奇妙な実在語の数々が大変に愉快である。
 ウィンスワースもマロリーもしばしば「……を表す的確な言葉があれば良いのに」と思う。たとえば、十九世紀にはまだ二日酔いという言葉がなかったので、ウィンスワースは「アルコールを過度に取りすぎた際のさまざまな症状を表す語があってしかるべきだ」(p.37)と思ったりするのである。
 日本なら、井上ひさしが書いていそうな話だな、と思う。
[本]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット