ジャスパー・フォード著『雪降る夏空にきみと眠る』上下
2022-03-28


20年 9月27日読了。
 最初の百頁ほどは退屈で、先行き不安だったが、その後だんだん面白くなってくる。
 舞台は我々とは違う歴史を辿った地球。ここでは、人類の文明期に地球は寒冷化している。どうやら全球凍結に向かっているらしい。そのため、人類は冬眠する生態を持っている。寒冷化が進んでいるのか、人類の文明は進んでいるにもかかわらず、冬眠期の死亡率が高まり、人口は減少傾向。人口を増やすためのさまざまな措置が取られている。出産が調整されているらしく、人口の比率は男三女七。妊娠出産に生涯を捧げる修道母が居る。
 殆どの人が冬眠する冬、人々の安眠を守るため、冬季取締官や睡眠塔の守衛が目を覚ましている。彼らは事故や災害に備えるだけでなく、冬の間に跋扈する盗賊や魔物、冬眠に失敗して生ける屍となったナイトウォーカーにも対処しなければならない。主人公のチャーリーは見習い取締官となって、安全に冬眠するための薬を作っている会社、ハイバーテック社の陰謀に立ち向かうことになる。
 幻想的な設定だが、筋立ては冒険活劇的に展開する。登場人物がみな個性的で良い。普通は、設定が奇妙な時には人物は典型的に作る物だが、この作品では強い個性を持たせながらも巧く均衡を取っている。主人公の性格は善良で誠実ながら激しい処や奇矯な処がなく、事件に対しては典型的な巻き込まれ型。癖の強い登場人物たちの中で、それが逆に目立つし共感しやすい。
 この社会では、冬眠時に無駄なエネルギーを消費させるとして、夢が否定的に扱われているが、その夢が持つ意外な機能が物語の鍵となる。冬眠前には沢山食べて脂肪を蓄えなければならないなど、細部の設定も作り込まれている。
 しかし、冬眠をする一般の人々にとって、「冬」というのは経験することのない殆ど抽象的な時間のはずで、その辺の独特の時間感覚が描かれていれば尚良かった。まあ、エンターテインメントとしてはこれで充分という気もするが。
 誰もが迷信だと思っている冬の魔物「グロンク」の実在感が徐々に高まってくるのも良いが、主筋である主人公と悪徳企業との対決にもっとからまっていると更に良かったであろう。
[本]

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