アストリッド・リンドグレーン著『ミオよ わたしのミオ』
2021-04-18


18年 6月 6日読了。
 養父母に虐げられている孤児の少年が、異世界に入り込むというよく在る形式のファンタジーだが、最後に主人公が現実世界に帰って来ない処が特徴の一つ。敵を倒して幸せを手に入れるという元型に沿った筋立てだが、なんとはなしに悲しみが透けて見えるような気がするのは何故だろう。ハッピーエンドなのに、悲しさとも寂しさともつかぬ痛みの気配があるのである。
 現実が否定されているからだろうか。描写された世界の瑞々しさのせいだろうか。気のせいか死の匂いもする。主人公は死につつあって、その中で見ている幻覚の世界ではないのか、というような感じ。どこにもそんな事は書いてないのだが。
 一つには、主人公が現実の世界で思い描いていた願望が悉く新たな世界で実現するという対応の不自然さがある。優しい父親、心の通じ合った親友、自分の乗馬などなど。それらが、主人公の作り上げた虚構ではないかという疑いを持たせる。まあ、対象読者である子供はそんな事思わないだろうけど。
 主人公と親友が酷く悲観的で、すぐにもう駄目だと思ったり、「……でなければ良いのに」とか思ったりするのも特徴の一つ。危機を自分の力で乗り越えるのではなく、いつも不思議な力が働いて助けて呉れる。頑張るとか、努力とか、諦めないとかいった押し付けがましい教訓のなさが良い。
[本]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット