池内了編『雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集』
2020-02-09


15年11月24日読了。
 「『霜柱の研究』について」という随筆が大変に興味深かった。これは、物理学には素人であろう自由学園の女子生徒が行った霜柱の研究報告に対しての感想である。生徒たちの年齢は書いていないが、発表当時自由学園に大学部はなかったから高校生であろう。著者はこれを「広く天下に紹介すべき貴重な文献」と高く評価している。物理学について専門的な教育を受けていない者でも、しっかりした手順を踏み注意深く観察をすれば、立派な研究ができるという事を証していると言うのである。
 著者と共に俺が気に入ったのは、しかつめらしく眉間に皺を寄せるのではなく、若い女性らしい強い興味故に発揮される注意力と楽しい雰囲気である。「私はこの直感的の推理は、既知の知識の集積から来るものではなく、現場に対して持つ興味の純粋さから来るものとぼんやり考えていたが、今その実例を見て非常に喜ばしく思っている」(p.234)。
 著者は寺田寅彦の弟子だが、寺田同様、定性的データを定量化すなわち数値化せずに尚且つ科学的に取り扱う方法を模索している事が「茶碗の曲線」「比較科学論」などから判る。そしてこの模索はどうも現在まで続いているようなのである。
[本]

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